熱処理知識の泉
焼入れ焼戻し
概要
変態点以上(+30℃~+50℃)に加熱した状態から水または油中に入れて急速に冷却を行う処理を焼入れといい、マルテンサイト組織に変態させて硬化する操作である。
鋼を焼入れしたまま長時間放置すると、置き割れといい、自然にクラックがはいることがある。
これは焼入れしても、全部がマルテンサイト化することはなく、残留オーステナイトが一部混ざり、残留オーステナイトは常温でも時間経過によりマルテンサイト化するので、その際の変態応力の発生で加工品の残留応力のバランスが崩れることが原因である。
そのため、焼入れ後、間をおかずに鋼を再加熱するのが一般的である。
この再加熱の操作を焼戻しという。
このように焼入れすれば非常に硬くなるものの、脆く使い物にならないが、焼戻しをすることで組織を安定化し、要求される機械的性質に改善することができる。
熱処理方法
炭素鋼 S45Cを例に取ると焼入焼戻は一般的に次のような熱処理条件で行われる。
得られる性質は次の通りとなる。
焼ならし | 焼入焼戻 | |
---|---|---|
降伏点[N/mm2] | 345以上 | 490以上 |
引張強さ[N/mm2] | 570以上 | 690以上 |
伸び[%] | 20以上 | 17以上 |
絞り[%] | – | 45以上 |
衝撃値[J/cm2] | – | 78以上 |
硬度[HBW] | 167~229 | 201~269 |